ユニバーサルデザインの壁と扉

シャンプーとリンスのボトル:触れるだけでわかるユニバーサルデザインの工夫

Tags: ユニバーサルデザイン, 製品デザイン, 触覚デザイン, 日用品, アクセシビリティ

私たちの日常生活には、当たり前すぎて意識しないものの、実はユニバーサルデザイン(UD)の考え方が深く根付いている製品やサービスが数多く存在します。今回は、毎日のお風呂で使うシャンプーとリンスのボトルに隠された、誰もが安心して使える工夫について掘り下げてまいります。

お風呂の「困った」を解決する小さな配慮

湯気で曇る浴室、あるいは泡で目が開けられない時、シャンプーとリンスを間違えて使ってしまった経験はございませんでしょうか。特に、視覚に障がいのある方々や、小さなお子様、高齢の方々にとっては、この「どちらがシャンプーで、どちらがリンスか」という判別が、日々の小さなストレスや危険につながることもあります。

このような日常の「困った」に、ユニバーサルデザインは静かに、しかし確実に解決策を提供しています。その代表的な例が、シャンプーボトルに施された「ギザギザ」の加工です。

触覚で「わかる」ユニバーサルデザインの真髄

多くのシャンプーボトルの側面には、縦方向に数本のギザギザとした突起が設けられています。これは「識別表示」と呼ばれ、触れるだけでシャンプーであることを判別できるようデザインされたものです。この一見単純な加工が、ユニバーサルデザインのいくつかの重要な原則を体現しています。

  1. 知覚できる情報(Perceptible Information): このギザギザは、視覚だけでなく、触覚を通して製品の情報を伝達しています。これにより、目の不自由な方だけでなく、浴室の照明が暗い場合や、目を閉じて洗っている最中でも、確実かつ安全にシャンプーとリンスを区別することが可能になります。情報の提供方法を多様化することで、より多くの人が情報を得られるようにする工夫です。

  2. 柔軟な使用(Flexibility in Use): 視覚的な情報だけでなく、触覚的な情報も加えることで、ユーザーは自身の状況や能力に応じて、最も適した方法で製品を識別できます。これは、特定の属性のユーザーに限定されず、誰もが自身の都合に合わせて利用できるデザインの具体例です。

  3. 失敗に対する寛容性(Tolerance for Error): ギザギザ加工は、誤ってリンスを使ってしまうリスクを大幅に低減します。これにより、ユーザーは安心して製品を使用でき、誤使用による不快感や不便さを避けることができます。間違えにくいデザインは、ストレスの軽減にもつながります。

このギザギザ加工は、特定の属性の方のみを対象としたものではなく、すべての人にとっての「使いやすさ」を高める配慮です。例えば、海外旅行先で慣れない言語の製品を使う際にも、触覚による識別は非常に有効でしょう。泡で目が開けられない子どもや、老眼でパッケージの文字が読みにくい高齢者にとっても、直感的な操作を可能にする大切な工夫なのです。

さらに進化する識別性

最近では、このギザギザ加工に加えて、ポンプヘッドの形状を変えたり、ボトルのくびれの有無で差別化を図ったりする製品も見られます。シャンプーのポンプヘッドは平らで、リンスは中央が凹んでいる、といった具合です。これらの工夫は、さらに「シンプルで直感的な使用(Simple and Intuitive Use)」を促進し、ユーザーが迷うことなく目的の製品にたどり着けるようサポートしています。

日常の「気づかないUD」がもたらす安心感

シャンプーとリンスのボトルに見られるユニバーサルデザインの工夫は、私たちの身の回りにどれだけ多くの配慮が隠されているかを教えてくれます。特定の誰かのためだけでなく、あらゆる人が快適に、そして安全に生活するための優しい気遣いが、日用品の隅々にまで行き渡っているのです。

こうした「気づかないユニバーサルデザイン」の存在に目を向けることで、私たちはより豊かな生活を送れるだけでなく、今後の製品やサービスが、さらに多様な人々のニーズに応えるものへと進化していくことへの期待も膨らみます。日々の暮らしの中で、ふとした瞬間にユニバーサルデザインの壁と扉が開かれることに、これからも着目してまいりましょう。